あっせん申請に出した個別労働紛争事案が代理交渉であっさり解決

労働局へあっせん申請を出していた労働トラブルが自主的にあっさりと収まりそうです。
あっせん代理人として私が交渉した結果、円満解決に向かい、ひとしお感無量です。

特定社労士にはあっせん申請後、本人に変わって相手方と和解交渉ができる代理権が認められているのですが、つい先日私が交渉した結果、相手方が当方の要望に沿っていただき、労働局のあっせんを待たずに自主的に解決するはこびとになりました。

この案件はいわゆる整理解雇として労働者に解雇通告を言い渡したものですが、労働者はその解雇が合理的理由によらず、社会通念上相当でないから労働契約法第16条に違反し無効として、使用者に解雇の撤回を求めたものです。
整理解雇には、判例法理上、以下の要件あるいは要素が必要とされています。

(1) 経営上の人員削減の必要性が存在していること
(2) 解雇回避の努力義務を尽くしていること
(3) 被解雇者選定に合理性があること
(4) 解雇手続に合理性があり労働者側と十分に協議や説明が行われていること。

裁判ではこれらを総合的に判断して解雇の有効性が問われることになります。
しかも訴えに対し、使用者側はこれらの事実関係を反証する必要があります。
あっせんの場合においても、あっせん委員等はこれらを確認してあっせん案を示すことになります。

今回の事案では、私から見ても上記のいずれをも充足することは困難であったと思われ、どうみても使用者側に有利な材料がありませんでした。
労働者側の代理人とすればあっせんの手数料を取るだけの気持ちであればあっさりいうと最後まで持って行きたい事案ではありました。でも敢えてそれはしなく、交渉の過程においてもそのことをはっきりと申し上げました。
あっせんをするうえでは、一方だけの視点ではなくある程度双方の立場を尊重することも重要だと思います。

私があっせんにのぞんで重視した点は次の通りでした。

1.労働者本人も地位確認を求めできるならば現在の職場の人間関係や仕事に満足しているため復帰することが望ましいと思っていたこと。
2.使用者も労働者本人には何の落ち度もなく、将来に向けて資金が枯渇する予想にたっての解雇通告であったこと。
3.ゆえに双方はけっして感情的に対立して解雇を争っているのではなかったこと。

であれば、今後の経営改善によっては人件費等の支払いもできなくはないし、万が一破産等になれば労働者側もある程度、その現状(解雇)を受入れざるを得やすくなるだろうという点を考え、これらを説明いたしました。
それには、お互いの共通した利益はどこにあるのかという視点で、相手方に当方の調整方針を明確にお伝えることが重要だと考えました。

使用者も実は苦渋の選択であったようです。賃金が支払えなくなってからでは申し分けないから解雇したのですが、かえってその対象が1人だけであったことに労働者の不満がありました。
また労働者の真意としては入社の折からずっと事業主に育てていただいたことに感謝の気持ちもあり、尊敬の念すらも今も持ち続けていることも、あえて使用者にお伝えしました。

使用者としては解雇した以上いまさら本人は復帰する気持ちはないのだという気持ちをお持ちでした。確かにお互い感情的に歪みあっているケースではよくあることです。
でも今回は私はそれとは違って、今後はかんたんに解雇することがないという見込みがあれば労働者の方もけっして現状に復帰することにはやぶさかでないと思われましたので、使用者には今の状況で訴訟に移れば相当に不利な面があることを重ねてしつこくお伝えしました。
とにかく無用の争いをしてその会社等の名誉を汚さぬよう誠意を尽くすことでした。

当日には「考えておきます。」というお返事でしたが、翌日には労働者の携帯に事業主からの解雇の撤回の申し入れがあったようです。その後、私の方にもあらためてお電話がありました。
電話の声では確かにその方の話しぶりにも安堵したような気配が感じられました。

私は「ご決断いただき感謝申し上げます。」とお伝えしました。そして今後会社経営の立て直しにご期待申し上げ、私も応援する気持ちをお伝えしました。
労働者の方も初めは面食らって、「本当に大丈夫だろうか」とのご心配の様子でしたが、職を失わずに越したことはありません。今日の経済情勢では再就職を憂慮されていたのも事実でした。

このたびの自主的解決に関わって感じたことは、法律論だけを振り回してのあっせんではなかなかこのように解決の手がかりを見つけるのは得られなかっただろうと思います。
WinWinの関係といいますが、互いにできうる限りのベストの道を探ることが重要です。
自分本位の主張ばかり貫いてもあっせんでは調整のしようがありません。

まず相手の感情を理解する、気持ちを察する、そしてこちらの真意をお伝えする
これらがあっせんの場では常道となるのではないでしょうか。
けっして訴訟のように切り札を出す駆け引きとかいうのではむしろ警戒心を生むばかりです。
さらに言い負かそうという気持ちがあっては、相手の方の心情を聞き出すことは到底できないだろうと思われます。

私も日本行政書士会のADR研修に参加し、これまでの評価型交渉ではなくて自主交渉援助型メディエーションの技術や手法を学んだことが、確かに今回の成果につながったようです。